Fate/staynight、とらいあんぐるハートクロス二次創作
理想の意味、剣の意志
四日目 第四部
弓兵召喚 〜ArcherT〜
「サーヴァント・アーチャー、召喚に従い参上した。
問おう、君が私のマスターかね?」
召喚されたのは鷹のように鋭い鉛色の双眸を持つ、紅い外套の下に黒の軽鎧を着込んだ褐色肌の白髪の青年。
「ええ、そうよ。これがその証」
右手を掲げて令呪を示したメディに、アーチャーと名乗った男は驚きを露にして彼女を見つめる。
「ほう、よもやサーヴァントが我がマスターとは」
そんなアーチャーを見据えながら、俺はこの男に嫌悪にも似た言い知れぬ不快感を覚えていた。
どうやらそれはアーチャーも同様だったらしい。
アーチャーは俺の姿を視界に捉えるなり、躊躇うこと無く殺意を向けてきたのだから。
「貴様は……!!」
今にも斬り掛かってきそうなアーチャーに、俺は腰を落として即座に小太刀を抜けるように構える。
「やめなさい、アーチャー!」
メディの凛とした一喝が土蔵に響く。
「どうして士郎に殺気を向けたのか、その理由は後で聞くわ。
今は外にいるランサーを倒すのを手伝ってちょうだい」
「……了解した」
渋々といった様子でアーチャーは引き下がると、外套を翻し無手のまま土蔵から飛び出して行った。
「私達も行くわよ」
「ふう……、ああ」
構えを解いて息を吐き、メディ、俺、美綴の順に土蔵を出る。
庭に出た俺達が目にしたのは、肩で息をしている美由ねえを庇うようにランサーと対峙するアーチャーの姿。
手には黒の中華風の短刀、ランサーを前にしてもアーチャーは構えらしい構えを取らない。
だらりと腕を下げ、自然体でそこに立っているだけだ。
一方のランサーはというと、土蔵から出て来た俺達を……正確にはメディ一人を険しい眼で睨みつけていた。
「サーヴァントの身でサーヴァントを使役するか、キャスター」
「何とでもおっしゃいな。そうでもしなければ、私が消されてしまうもの」
「ハッ、よく言うぜ、この女狐が。
どうせ退路の一つや二つ、ちゃっかり確保してんだろうが」
「さあ、どうでしょうね。
それに仮にその手段あったとして、私が彼女を見捨てて逃げるとでも?」
「坊主と嬢ちゃん連れて走り出した時はそのつもりかと思ったが、まさかこんな奥の手を用意してるとは思わなかったぜ」
ランサーの言葉に篭められているのは素直な称賛の念。
「ま、とはいえこれで七組すべてが揃ったわけだ。
それじゃ早速、七人目のお手並み拝見といこうかね!!」
そう吼えると同時、ランサーは一足でアーチャーを槍の間合いに捉える。
そこからは、美由ねえとの攻防の再現だった。
反撃する間も無い刺突の雨を弓兵であるはずの男は剣で捌き続ける。
だが十数合目、加速する槍に対応しきれなくなったのか、アーチャーの手から剣が弾き飛ばされた。
「間抜け――――――」
武器を失ったアーチャーにランサーは容赦なく必殺の突きを放つ。
体勢を崩された上に得物を持たぬアーチャーに、その一撃を回避する術は無い。
――――――そう、思っていた。
「何!?」
冷たい金属音が響くと同時、ランサーが驚愕の声を漏らす。
ランサーが驚くのも当然、アーチャーの手にはいつの間にか弾かれたはずの黒の短刀と、対となる白の短刀が握られていた。
「テメエ、双剣使いか!」
答える声は無く、アーチャーは返事の代わりに黒白の双剣を構えランサーへと踏み込む。
「させると思ってんのかよ!!」
近づかせまいと怒濤の勢いで槍を繰り出すランサーに、アーチャーは防ぐのが精一杯で思うように距離を縮めることが出来ない。
だけど俺は、神業じみたランサーの攻撃よりも、防御に徹するアーチャーの剣技に魅せられていた。
ランサーのように天賦の才が無ければ届かない領域にあるわけじゃない。
それは平凡な才能しか持たない人間が修練に修練を重ねた末に手にした、あまりに無骨な凡人の極みの剣。
速度だけを見ればランサーはおろか美由ねえにも劣るかもしれない。
その圧倒的な地力の差を、アーチャーは膨大な実戦経験に基づく戦闘理論を駆使して相手の行動を予測、あるいは自ら急所に隙を晒して攻撃箇所を誘導することで補っている。
「アーチャーの戦い方。あんなの、正気の沙汰じゃないよ」
すぐ傍から、美由ねえの声が届く。
英霊同士の戦闘が始まるのを見届けた後、即座に彼女の元へ駆け寄ったメディの治癒魔術により満身創痍の怪我を癒してもらった美由ねえは、俺の隣に歩み寄ると戦場から目を離さないままそう呟いた。
言わんとしていることは、なんとなくだけど解る。
フェイクの隙を自然に作る技術は見事だが、一つでも反応が間に合わなければ即死に繋がるそんな防御を躊躇無く行えるのは異常だ。
再度、アーチャーの手から剣が零れ落ちる。
だが次の瞬間には僅かのタイムラグも感じさせずアーチャーの手の内に寸分違わぬ剣が握られていた。
間合いを詰めようと槍を捌きながら接近を狙うアーチャーに、近づかせまいとなお加速するランサー。
アーチャーの弾かれた剣の数はとうに十を超えている。
それでも何処ともなく現れる剣は尽きる様子がまるで無い。
――――――解析、開始。
今握られている剣と弾かれた剣に解析を掛ける。
宝具クラスの剣なら完全に解析することはできないが、それでも骨子を見比べることは出来るはず。
理念、骨子、材質、そこまで解析して出た結果は、剣として有り得ないはずの、同一という結論だった。
際限無く現れるアーチャーの剣にキリが無いと思ったのか、ランサーは自ら攻めを止めて間合いを外す。
「二十七、それだけ飛ばしてまだあるとはな。
テメエ、何処の……いや、そもそも何の英霊だ?
セイバーはさっきやりあったし、キャスターはそこにいる。
アサシンにしちゃ戦い方が泥臭過ぎるし、バーサーカーやライダーって柄でもなさそうだ。
ってことはアーチャーかイレギュラーだが……」
「敵である君にそんなことを素直に教えると思っているのかね?」
「いんや、んなこた微塵も思っちゃいねえよ」
皮肉気に口元を吊り上げたアーチャーに、ランサーは飄々とした態度で返す。
そして槍の穂先を地に向け殺気を霧散させたランサーは、アーチャーから視線を外さずメディに話しかけた。
「おい、キャスター。ここいらで分けってことにはできねえか?」
「あら? どういう風の吹き回しなのかしら?」
「こっちにも色々都合ってもんがあるんだよ。
で、どうする?」
少し思案する様子を見せて、メディは返答する。
「……受けましょう、その提案」
「物分かりが良くて助かるぜ」
「ただし、条件が二つあるわ」
「条件?」
「一つ、これ以上士郎たちを狙わないこと。
二つ、この先三日間私たちを襲わないこと」
「なんだ、そんなことか。いいぜ、呑もう」
メディの要求をランサーは逡巡した素振りも見せず同意する。
「ならいいわ。さっさと失せなさい」
「言われずとも帰るさ。
折角俺から生き延びたんだ、死なねえよう精々頑張りな」
跳躍して塀に足を掛け、ランサーは最後にそう言ってその姿を眩ませた。
確認と警戒を兼ねて周囲の気配を探る。
ランサーの気配は完全に感知できなくなったが、新たに二人、こちらに近づく気配を捉えた。
「誰か来るな……」
「サーヴァントの気配……どうやらマスターのようね。
まったく次から次へと厄介事ばかり……」
「でも殺気は感じられないから戦いに来たわけじゃないみたいだよ」
「そうなの? ならアーチャーと美由希で様子を見て来てくれるかしら」
「了解。行くよ、アーチャー」
「……やれやれ、人使いの荒いマスターだ」
剣を消したアーチャーはそう嘆息すると、美由ねえの後ろに続いて門から出て行った。
Interlude4−2
黒髪の女性の後ろに続きながら、私は自身の置かれている状況を整理していた。
聖杯から得た知識から第五次聖杯戦争に召喚されたことは把握している。
マスターが正規の魔術師ではなくサーヴァント・キャスターだったのは意外だが、それはまだ許容範囲だ。
問題は目の前で歩く美由希と呼ばれた女性と――――――衛宮、士郎。
奴の姿を見た瞬間堪え切れず殺気を向けてしまったが、今振り返ればその行動は愚にも程がある。
おそらくキャスターのマスターはあの男、それを傷つけることをキャスターが許すとは到底思えない。
令呪を使われては私の……オレの悲願を果たすのが面倒になる。
思わす舌打ちしたくなるが、過ぎたことは仕方が無い。
ただ、あの時の奴の行動を思い出すと、幾つか不可解な点があった。
――――――あれは本当にオレの求める衛宮士郎なのだろうか。
私の記憶にあるこの時期の奴では殺気に反応して構えるような真似が出来る程の実力は無かったはずだ。
奴が得物に小太刀を使っていたことも疑問の種となっている。
もし仮に奴が「違う」というのなら、私は、オレはこの先どうするべきなのだろうか?
奴が変わった原因として考えられるのは、私が向かうまでランサーと打ち合っていた美由希という女性の存在。
「アーチャー、そろそろ来る。
一応何かあったら即座に対応できるようにだけはしておいて」
「了解した」
……まあいい、詳しい話は事が終ってから訊けばよかろう。判断するのはその後で十分だ。
坂を上って現れたのは二人組の少女。
一人は赤い服を着た黒髪ツインテールの少女。
摩耗した己の記憶でもそうであるから、彼女は十中八九マスターだろう。
そしてもう一人の少女の姿を視認したとたん、私は凍りついた。
青いドレスの上に銀の鎧を纏った、流れるような金紗の髪を持つ少女。
「セイ、バー……」
「生前の知り合い?
運命の再会ってやつなのかもしれないけど、呆けるなら後にして。
あの金髪の子がセイバーで間違いない?」
美由希の言葉にはっと我に返って私は頷きを返し、気を引き締める。
「――――――誰!?」
私達の存在に気付いたのか、警戒の声を上げる赤い少女。
そんな少女を庇うようにセイバーが一歩前に出る。
「下がってください、リン。
彼女はおそらくマスターです」
「違うよ……って言ってもサーヴァント連れてちゃ説得力無いか。
出来れば穏便に済ませたいんだけど……」
「……何を企んでいる?」
「何も企んでなんかいないよ。
今までランサーと戦ってたせいでこっちは結構疲れが溜まってるんだ」
「つまり、ランサーを追い返したのは貴女達ってことよね。
この家の人間はどうしたのかしら?」
リンと呼ばれた少女の問いに、美由希はきょとんとした様子で自分を指さす。
「私、この家の人間だよ?」
「え? ここって衛宮くんの家のはずじゃ……」
エミヤという名に反応してか、セイバーが微かに身を強張らせる。
美由希はそれには気付かなかったらしく、リンとの会話を続けていた。
「あれ、士郎の知り合い?」
「……学校の同級生よ。
そう言う貴方こそ、彼とどういう関係?」
「私と士郎の関係……か。
形式上は居候と家主ってことになるけど、感覚的には弟のようなものかな」
「ふうん……弟、ね。
まあいいわ、それより衛宮くんは無事なの?」
「一応はね。ところで、どうして貴女達がそのことを?」
「あ……」
しまったと言わんばかりに手で顔を覆うリン。
だがそれも一瞬。
「あ、あれよ、ほら、なんというか、虫の知らせ……みたいな?」
本人は必死で誤魔化してるつもりなのだろうが、冷静になりきれていないせいか言ってることが胡散臭いことこの上ない。
「ま、それで納得しておいてあげるよ」
「そうしてちょうだい……」
ほっとしたように溜息を吐いたリンは今までの慌てぶりが嘘のように表情を消し、鋭い眼を美由希に向けた。
「それより貴女は何者なのかしら?
腰に下げた刀とか、その血塗れの服装とか、そこのサーヴァントのこととか、訊きたいことは山ほどあるんだけど?」
「真面目な内容を話し合うのにこんな所で立ち話っていうのもなんだし、中に上がっていきなよ。
お茶くらいは出すし、質問にも答えられる範囲内で答えてあげるからさ」
そう言って美由希は無造作に衛宮邸の門を示す。
「正気か、君は!? 自らの本拠地に敵を招くなど」
「リン、私は反対です。どんな罠が用意してあるかも知れません」
私とセイバーの言葉が重なる。
敵味方の関係のはずがどちらも言ってる内容は殆ど同じ。
ただ、セイバーの言葉が単純に警戒から来たのに対し、私の場合は驚愕から反射的に言ってしまった言葉だ。
魔術師の工房に他者を招き入れるなど愚の骨頂、ランサーに攻め込まれた直後となれば尚更危険度はどれほど跳ね上がるのか。
正直私は反対したいのだが……。
私とセイバーが揃って厳しい顔をしていたのが可笑しかったのか、それとも相手の反応を確かめる狙いなのか、美由希とリンはどこかわざとらしくほぼ同時に吹き出す。
まるでその様子は狐と狸の化かし合い。どちらが狸でどちらが狐なのかはあえて考えない。
リンは内心の読めない作り笑顔のような表情を浮かべ、見かけだけはにこやかに返事を告げた。
「ふふ、ならお邪魔させてもらおうかしら」
「そうしなよ、じゃあ行こっか」
馬鹿か……と頭を抱えたい衝動を抑えて、セイバー達に気付かれないよう無防備に背中を向けた美由希を睨む。
キャスターが私の召喚で魔力が枯渇して万全で無い今、事が起きた際に対応出来るのは私とこの女くらいだろう。
あの未熟者の力量は不明だが、仮に奴が美由希程強かったところで、三人がかりでもこのセイバーを抑えきることは出来まい。
しかし美由希は前言を撤回する気はまるで無いようで、もうどうとでもなれという投げやりな気持ちになりながら私は彼女の後ろについていく。
門を潜った私達を出迎えたのは訝しげな顔を向けるキャスターと、奴と少女の驚愕の表情だった。
Interlude out
応援してくれる方、ぽちっと↓
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お待たせしました、約三週間ぶりの更新です。
最近どんどん文章力が低下していってる気がしてる作者の今日この頃。
とりあえず凛との会合は次回に繰り越し。
アーチャ―の記憶は中途半端という設定にしました。
言峰教会に行く必要性があまりないのでバーサーカー戦をどうするか……。
問題点の指摘や感想、お待ちしております。