理想剣×DuelSaviorクロスSS


反逆の剣握る正義の味方

Chapter1-4



 リリィの提案に同意した士郎は日没まで学園長室で待ち、月明かりと星の光に照らされた人気の無い夜の闘技場へとミュリエルに案内された。

 学園内に闘技場があるというだけでも士郎にとっては驚愕モノなのだが、コロッセオを想起させる本格的な造りには更に驚く。

 とはいえ、そんな驚きに身を固める間も無く、士郎は戦意に満ちたリリィによってその闘技場の中央まで連れていかれた。

 対峙する両者の間に存在する彼我の距離は約五メートル。

 この距離はトレイターによって強化された士郎の身体能力ならば一足で十分に詰め寄れる間合いだが、出逢った時のリリィの戦闘を見る限り、そう簡単に近づかせてくれるような相手とも思えない。

「来い、トレイター」

 顕現した長剣を右手で握り、構える。

 身体を満たす力は絶大、しかしはたして己にそれを扱いきれるかどうか。

「本気で来なさい。貴方の全力、完膚なきまでに叩き潰してあげるから」
「リリィこそ。手加減したから負けました、なんて言わないでくれよ?」

 挑発を交わす二人の間に張り詰めた空気が流れる中、審判を務めるミュリエルから声が届く。

「二人とも、準備はいいかしら?」
「ああ」
「はい」

 頷きの後、数秒の間静寂が闘技場を支配する。


 ――――――そして。


「では……、はじめっ!!」

 ミュリエルによる開始の合図の直後、先に仕掛けたのはリリィだった。

 剣士と魔術師という関係上、士郎にとってはいかにして近接戦闘に持ち込んで間合いに捉えるかが勝負の肝となるのは言うまでも無い。

 一応士郎には投影などの遠距離攻撃の手段もあるにはあるが、原因が判明したとはいえこの世界に来て早々に一度魔術回路の制御に失敗している身だ。

 再び暴走させるリスクを残している以上、まさかこんな模擬戦で試すわけにもいかないだろうという思いがある。

 加えて、トレイターだけでどこまで戦えるのかを試してみたいという気持ちが士郎の内に芽生えていたから、仮に使える状態だったとしても、士郎にはこの戦いで魔術を使うつもりは無かった。

 高速で迫り来る小さな炎の軌跡を持ち前の眼の良さと強化された感覚を頼りに見切り、最低限の動作でそれを回避するルートを見出してその道筋を追うように疾駆する。

 士郎が狙うのは、魔術発動後から次の魔術を準備するまでの隙。

「ブレイズノンッ!」

 だが、リリィの声に応じて小さな火の玉から火柱へと変化した魔術を見て、士郎は自身の読みが浅かったことを悟らされた。

 未知の術式に対しての警戒と覚悟は出来ていたつもりだったが、まさか致死レベルの魔術を初撃から使ってくるとは流石に計算外だ。

 至近距離かつ加速した状態では、躱すことは難しい。

 しかし、防御ならばまだなんとか間に合う。

 トレイターから供給される魔力を防御に集中させて対魔力の底上げを行い、士郎はその場に踏みとどまって、生身で受ければ全身火傷はほぼ確定であろう規模の炎を受け止めた。

「くっ……」

 トレイターとぶつかり合った炎は消滅するが、魔術的な効力は消せても物理的な衝撃までは消しきれず、一歩、二歩と後退させられる。

 その威力に冷や汗を流しながら、士郎はリリィに向かって叫んだ。

「てめっ、この、殺す気かっ!?」
「召喚器を持った救世主候補がこの程度の魔術でどうにかなるわけがないでしょ。
 ほら、次行くわよ」

 さも当然のように言って、士郎を近づかせまいと移動しながら次々と放たれる氷や炎、雷撃などといったリリィの魔術。

 弾幕のように放たれる未知かつ多彩な魔術の数々は士郎にとって厄介極まりなく、中々距離を詰めることができない。

 大半は先の反省を活かしてなるべく余裕を持って躱して、雷撃のように避けられそうにないものだけは先程と同じように対魔力を上げて受け止めて、そうして彼我の距離を徐々に縮めていく。

 僅かずつであるが確実に迫って来る士郎に、リリィは焦る気持ちを押し隠しながらフェイントを織り交ぜ技巧を凝らして有効打を取ろうと魔法を放ち続ける。

 一体どれほどの魔術が放たれ、捌かれたのか。

 ようやくリリィに剣が届く間合いにまで詰め寄った士郎は剣を振るおうとして、リリィの掌に収束している青白い光に、背筋が冷えるような嫌な予感を覚えた。

 青白い光は雷撃魔法の兆候というのは今までの攻防でわかっているが、集まっている魔力量は桁違いだ。

 これまでの雷撃魔術とは比較にならない規模と威力を秘めていると判断していいだろう。

「ヴォルデカノンッ!!」

 リリィが呪文を叫ぶより僅かに早く、士郎は無理な姿勢から右後方に全力で跳び退る。

 放たれる前に攻撃しようにも、おそらく魔術障壁を張るか何かしかの予防策は用意してあるはず。

 もしかしたらそんなものは無いのかもしれないし、仮にあったとしても一撃で破壊できる強度なのかもしれないが、失敗した時のリスクが大き過ぎる上、こと衛宮士郎が戦うにおいて幸運に期待した特攻など分の悪い賭けどころではない。

 攻撃して防がれた隙にアレの直撃なんて洒落にならないから、まだそれよりは魔力を防御に回して受けるか躱すかという選択肢を選んだ方がマシだ。

 とはいえ相手は雷。その速度の前には強化された感覚とはいえ咄嗟の見切りなど無謀極まる。

 高速で思考を巡らせてこの状況を凌ぐ手段を模索。


 ――――――どうする?


 単純に防御する――保留。あの規模の雷のダメージを完全に防ぎ切れる可能性は極めて低いので最善じゃない。が、最悪はこの手で乗り切るしかない。

 ならば他に何かないか?

 トレイターの特性を、雷という性質を利用しろ。

 一つ、手は思い付いている。

 問題はそれを成す時間が足りるかどうかだ。


 ――――――間に合うか? いや、絶対に間に合わせる!


 幾多の窮地を潜り抜けて来たあの紅い弓兵ならば、このような状況など窮地ともせず難なく乗り越えるだろう。

 だったら、圧倒的に経験は足りずともトレイターという反則を得た俺がこの程度の魔術を凌げずしてアイツを超えることなどできるものか。

 決断は即座に、召喚器を地面に突き刺して脳裏に無駄に長い槍をイメージする。

 想像通りに変化した召喚器から手を離して士郎は地面を転がると、槍を即席の避雷針とすることで雷撃をやり過ごした。

「パルスッ!!」


 ――――――まさか、あのタイミングから防がれるなんて。


 リリィは絶対の自信を持って放った己の魔法が無力化されたことに驚愕と、本人は認めないかもしれないが感嘆の念を抱いていた。

 先の攻防で身体能力と判断力の高さは認めていたが、前衛型の召喚器使いなのだから当然だろうという思いがあったことは否定できない。

 しかし、召喚器の特性を活かして防いでみせた咄嗟の機転が今日召喚器を呼び出したばかりの人間に出来るほど簡単なことじゃないというのは、士郎よりずっと長く召喚器を使い研鑽を続けているリリィは己の経験としてよく知っている。

 だけど、召喚器を手放したのは失策ね。

 アレを防いだことは評価してあげるけれど、召喚器無しでこれが防げるかしら。

「戻れ、トレイターッ!!」

 姿勢を立て直す間も無く空中に飛び上がって追撃を仕掛けてくるリリィに、士郎はトレイターをギリギリのタイミングで呼び戻して辛うじて防御し、なんとか体勢を整える。

 このまま防戦し続けてリリィの魔力切れを狙うのは、ほぼ際限無しの魔力供給を得られる召喚器相手には無謀としか言えない。

 ならば、とトレイターをランスに変化させ上空にいるリリィに向かって突進するように跳躍。

 普通なら行動の幅がかなり限定されて格好の的になるところだし、リリィもそう考えてしまった。

 もしもリリィが常の状態であったならば、今まで回避を優先していた士郎が強引に突貫するなど何かあるかと不審を抱いて警戒しただろうが、残念ながら手元に召喚器を戻せるとは思っていなかった彼女は予想外の事象によって些か冷静さを欠いていた。

 リリィから放たれた先程までよりやや大きめの火炎魔術を、見えない足場でもあるかのように不安定な姿勢から士郎は更に高く飛び上がることによって回避して。

 そして、トレイターを長剣に戻して落下速度を加えた渾身の斬撃を叩き込む。

「はあぁっ!!」
「くぅぅっ!!」

 リリィの魔術障壁と長剣とが衝突し、束の間の拮抗状態になるも、その障壁ごとリリィは後ろに弾き飛ばされた。

 着地と同時、トレイターをナックルに変えて魔力でブーストしつつ吹き飛んだリリィに追撃を掛ける。

 ようやく士郎に訪れた攻撃の機会。

 拳を受けた障壁はついに砕け、僅かに勢いを殺されつつも、それでも常人ならば十分に無力化できるだけの威力はある一撃がリリィの鳩尾へと吸い込まれた。

 女の子には優しくしろと親父から言われていたし、女性の腹を本気で殴るのは我ながらどうかと思うが、リリィ自身が致死レベルの魔術を躊躇わなかったのだから、召喚器の加護による防御は並大抵の攻撃じゃ通用しない。

 現にリリィは苦悶に顔を顰めているだけで意識を刈り取るまでには至っていないし、その双眸に戦意の炎はいまだ健在。

 頼むからこれで沈んでくれよ、なんて思いを抱きながら、士郎は更に踏み込みトレイターをナックルから斧へと変化させて再度追撃する。

「ちっ、アークディアクルッ」

 崩れた体勢のまま強引に掌を突き出して放たれた巨大な氷塊と横薙ぎに振るったトレイターがぶつかり合う。

 その魔術にどれだけの威力があったのか。

 徐々に斧が押し戻され、召喚器の護りを突破した冷気が士郎の身を苛む。

 これ以上の追撃はもはや不可能。逆にこのままじゃ、押し負けてこっちが氷漬けにされてしまうかもしれない。

 そう判断した士郎は攻撃に回していた魔力を防御へと転換することでリリィの魔術に耐える。

 その間に、リリィは受けたダメージと無茶な魔術行使で乱れた呼吸を整えながら仕切り直しとばかりに大きく距離を取った。

「アンタ、本当に今日召喚器を呼び出したばかり?
 その割に、信じられないくらい扱い慣れてるようじゃない」
「知らない武器とはいっても使い方は自然に頭と身体に流れてくるからな。
 要はその知識通りに動けばいいだけの話だろ」
「そうやって動けるっていうことがそもそもおかしいのよ。
 召喚器から知識を与えられたとしても、普通はその動きに慣れるのに時間が掛かるものじゃない」

 リリィの疑問に対し、士郎は返答しながらトレイターを二振りの小太刀へと変形させる。

「まあ、さっきまでの戦い方は召喚器の担い手としての戦い方を意識していたから、抵抗無く与えられた知識に身を預けることが出来たんだろうな」
「どういう意味よ?」
「武器から知識を得て戦うことにはある程度経験があるから多少の慣れはあるってことさ。
 けど、これからは召喚器の担い手じゃなく、一介の剣士として戦わせてもらう」

 そう言って不思議な威圧感すら湛えて小太刀を構える士郎に、リリィは今までとは違う雰囲気を察して油断無く彼を見据える。

「御神の剣士、衛宮士郎。参る!」

 その宣言の直後、リリィは士郎の姿を見失った。




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 皆様お久しぶりです。テストで専門科目詰まりまくりで色々と詰んだ管理人です。
 なんとか月末更新。五月のようにならずに良かったです。
 最初一人称形式で書いていたものを三人称に直して書いてみると意外と書きやすくてびっくり。
 というかいまだ一日目だよ。登場人物リリィと学園長くらいしか出せてないよ。
 ……夏季休暇中に進めばいいなぁ。進んだ例はないけど。
 相変わらずの駄文ながら一人でも楽しんでくだされば幸いです。
 問題点の指摘や誤字脱字、感想等々があればどんどん送ってください。